April 28, 1990

CD Jounal

すべての人々を同胞として愛したい
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MFQ(モダン・フォーク・クァルテット―現在は5人組だが)の名前が、日本にとどろいたのは、1963年にさかのぼる。その頃彼らのまわりの環境は、キングストン・トリオに代表されるフォーク・ミュージックの全盛期。MFQもフォークをやろうということで結集したんだそうだ。しかし、そのルーツは普通のフォーク・グループと少し違った。
「僕は協会でバッハのカンタータなどを歌っていたんだけど、ジェリーたちと出会ってもっとポピュラーな音楽、つまりフォークをやろうってことになったんだ。僕たちのやろうとしたことは当時アメリカでブームになっていた、ウエスト・コースト・ジャズを、サックスやトランペットじゃなく、僕たちの歌で作ろうというものだったんだ。だからMFQのはじまりは、フォー・フレッシュメンからのゾクゾクするような影響にあると言ってもいいね」グループのメンバーの一人、ヘンリーが教えてくれた。しかし、MFQはメジャーの成功を収めることなく解散、70年代に一度再結成したものの、また解散だから、現在のMFQは3世代目にあたる。ヘンリーは「最初のうちはフォークでよかったんだけど、ビートルズや他のロックンロールがエレクトリックなものをシーンにもらたして、僕たちもフォーク・ロックをやろうとしたんだ。事実、フィル・スペクターと一緒にアルバムを作ったんだけど、リリースされず、意気消沈して解散。再結成した時も久しぶりに昔の仲間が集まって、またやろうってことになったけど、世はディスコ時代。僕たちはお呼びじゃなかったってやつ。今回のMFQは、日本をはじめとしたいくつかのマーケットの要請というところかな」と言って笑う。
実際、彼らは現在の活動を心の底から楽しんでいるようだ。時代の欲求はまたひとめぐりして彼らに向いている。でも、今、何故MFQなのか?その答えは彼ら自身がしっかりと持っている。中心人物のジェリーは語る。
「ひとめぐりしたと言っても、そんなに単純なものじゃない。25年の間に人々の指向は多様化したし、人口も4倍近くに増え、それだけ方向性も増えている。しかもメディアが発達して、我々と人々とのコミュニケーションが楽になった事も一つの要因だ」「更に」とヘンリーが続ける。「ヘヴィ・メタルやラップの音楽が生まれ、ラジオがそれを流している内に、人々はメロディと出会いが少なかったと思うんだ。だから今、ウェイブ・ステーションや、ウィンダムなど、「いいメロディ」を人々が求めているんじゃないかな。そういう背景でトレイシー・チャップマンなんかも生まれたんだと思う」彼らは、言ってみればフラワー・チルドレンなわけだが、そんな彼らにとって、トレイシーをはじめとするフォークの新しいアーティストは、どのように写っているのだろう。ジェリーに聞く。
「トレイシーなどのアーティストは、音楽的なところ以外に重要なポイントがあるんだ。それはプロテストということ。我々はラヴ・ジェネレーションだから、60年代は戦争に反対した。それが反体制のメッセージになった。でも今は、危機はもっと大きなところにある。我々は地球人として、同じところに位置してるはずだよ。国家やイデオロギーや民族などにこだわっていては、やがて我々の母体である地球が病んでしまう。だから彼らは地球を危機に陥れる総てのものにアンチ・メッセージを投げかけているのさ。その意味では我々とまったく同じだね」

音楽を作り出す上で一番大切なこと。それは“愛”であり“心”なんだということを、あらためて感じさせてくれたMFQ。コンサートでも会場全体を大きな愛で包んでくれたし、アルバムからもその愛は感じ取れる。「すべての人々を同胞として愛したい」という彼らの姿勢には、嫌味なところも全くなく、25年の間に大地にしっかりと根ざした、大きな愛があった。それがMFQの音楽なのだった。

CDジャーナルより転載  聞き手−村上太一

投稿者 Mika : April 28, 1990 12:40 AM
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